歯並びやかみ合わせに問題があると、アゴをずらして咬んでいる場合がよく見受けられます。アゴをずらして咬んでいる場合には、矯正前に予めスプリントを用いてアゴの関節(=顎関節)の位置を改善する必要があります。正しい顎関節の位置で歯を並べないと、治療後の後戻りの原因にもなります。また、歯を動かす前に、スプリントでかみ合わせに変化を与えた場合の顎関節の反応を確かめることも大切です。

 スプリント治療後は、口内に本来のかみ合わせの状態が現れるため、どのように歯を動かすべきか正確に診断し、治療計画を具体的に立てることができます。

 その後、矯正治療によって正しいアゴの関節の位置で歯を並べることで、歯にとって最も負担の少ない位置で並べることができ、さらに歯ぐきなどの歯周組織、アゴを動かす筋肉や顎関節などへの負担が少なくなり、後戻りしにくいかみ合わせを得ることができます。

 実際、矯正治療を受ける患者さんでは、程度の差はあれ顎関節に問題を抱えている方が多く見受けられます。NebbeとMajorは、思春期前の矯正前患者において女子では85%、男子では60%に関節円板のズレが認められたのを報告しています(Nebbe et al., Angle Orthod 2000)。この関節円板のズレは年齢が増すごとに進行する可能性を池田らは報告しています(Ikeda K.,J Prosthodont 2014)。関節円板のズレは下顎頭の成長発育に影響を及ぼし、アゴの歪みや顔面非対称の原因となります。

 もし顎関節症を有する場合に口内のかみ合わせを見ただけで診断した場合、どうなるでしょうか。矯正中に顎関節症状を発症したり、治療の途中でかみ合わせが変化したり、治療方針を余儀なく変更しなければならなくなったり、矯正装置を外したがすぐに後戻りするなどの問題が起こる場合があります。

 以上のことから、矯正治療で安定したかみ合わせを得るためには、口内のかみ合わせをみるだけでなくまずは顎関節を診て、顎関節に問題があれば先に顎関節からアプローチしていくことが大切です。


スタビライゼーションスプリント

 

症例1


スプリント前

スプリント後

 スプリント前は、顎関節CT画像から下顎頭が関節窩内の前下方にずれています。スプリント後は下顎頭は上方に偏位し、口内では上の前歯の前突が大きくなっています。このように関節の位置のズレが改善すると、口内のかみ合わせが変化して、本来のかみ合わせの状態を確認できます。

主訴 出っ歯
診断名 上顎前突症
年齢 11歳
使用装置 スタビライゼーションスプリント
治療期間 1年8か月(通院回数:20回)
治療費用 12万
リスクと副作用 口腔衛生状態が悪いとむし歯になる可能性があります、使用時間が少ないと効果が得られません。

症例2


スプリント前

スプリント後

 スプリント前は、顎関節CT画像から下顎頭が関節窩内の下方にずれており、下顎頭が大きく骨吸収しています。スプリント後は下顎頭は上方に偏位し、骨表面が丸みを帯びて機能が良くなったのが一目瞭然です。口内では下顎が後方に下がり、咬合が変化しています。このように、スプリント治療によって本来のかみ合わせの状態を確認できると同時に、歯を動かす前にスプリントで咬合に変化を与えた場合の顎関節の反応をみることも大切です。

主訴 左側のアゴが時々痛む
診断名 上顎前突症、左右側変形性顎関節症
年齢 13歳
使用装置 スタビライゼーションスプリント
治療期間 2年(夜間のみ使用/通院回数:24回)
治療費用 30万
リスクと副作用 口腔衛生状態が悪いとむし歯になる可能性があります、使用時間が少ないと効果が得られません。